まだ立ち直れない。
おばあちゃんのそばにいてあげたいよ…
おばあちゃんが自分の家が見たいって。ここから見れるから見せて、って言うんだ。
施設の廊下の窓から見える古いおうちが、自分の家だと思い込んでいて、
だから、その窓まで連れて行ったら、おばあちゃん必死に立ち上がって、見ていた。
一緒に、あれだね。そうだね。あれがうちだね。って。
本当の家は電車で30分も離れた所にあるのに。
一緒に住みたいねって言ってた。
やっぱり、そうだよね。家族と一緒にいて、思い出を共有しないと、自分が何者かわからなくなるというか…。
それまでの積み重ねがおばあちゃんだから。
基盤がないと、そりゃあ感情をなくしてぼーっとしちゃっても不思議ではない。
言ってること、分かってもらえるかな?
私もね、本業の仕事が2週間とか空いた時、たまに日雇いのアルバイトをする時があるの。
そうすると、その他大勢として扱われて自分がどうでもよくなるというか…。
日雇いのその会社には
それまでの自分の実績もないし、共通の認識もない。
ただ、そこの社員の人に、
『じゃあアルバイトさんたち、こっち来てください〜』とか呼ばれてゾロゾロと他のバイトたちと一緒に無表情で歩いていく。
そんな生活が何年も続いたら、誰だって無表情になる。
だからおばあちゃんに思い出してもらう。
ご近所の人たちの名前。おばあちゃんのお友達の名前。おばあちゃんが勤めていた会社の名前。おばあちゃんの妹の名前。飼っていた犬の名前、ネコの名前。
近所の牛乳屋の名前、裏の自転車屋さんのこと。
思い出して。おばあちゃんが築いて来たもの、人との関係、私は分かってるから。
施設の職員さんがいくら良くしてくれても、やっぱり私がやらなくちゃいけない部分はある。
家族である私にしか出来ない部分だよ。
だから私、そばにいたいんだよ。
でも、コロナで、施設での面会が限られてる。
辛いよ。
おばあちゃんが言ってくれた。
ほにゃはいい子だね。優しいね。って。
おばあちゃん。大切に思ってるからね。